CHAPTER02

動画制作の裏側、
音と光のこだわり

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長嶋

こうしてクリエイティブを見せていただくうちに、「ぜひ動画全編をお願いしたい」という流れにどんどん進んでいき、動きや光の表現、そして「サウンドはもっとこだわりたいね」というところへ繋がっていきました。
全体のイメージが固まっていく中で、トムさんの方で総合的な構成案としてVコンを作っていただいた、という流れだったわけですよね。

トム

そうですね。Vコンというのは、絵コンテなどの静止画に対して、セリフの文章や仮の音声を当てはめて、実際の動画のように仕立てるものなのですが、このVコンを使って音をはめたり、全体の尺を細かく決めていきました。

長嶋

いやあ、懐かしいですね。まだあの頃は、バブラシュカ語もスタッフの声で仮当てした音声でした。
ムービーのご相談をする前から、「実は、ナレーションで流す音声は架空の言語を当てようと思ってるんだ」とお話ししていましたね。

トム

はい。最初にその意図を熱弁していただきまして、非常に感銘を受けました。

長嶋

前田さん、この音声周りを構築するに至っての思い出や苦労話などはありますか?

前田

何度か話に上がっている「西洋でも東洋でもない世界を作る」ということにも繋がるのですが、西洋らしさと東洋らしさが入り混じった音や言葉というのは一体どんなものなんだろう、と。
自分たちだけではなかなか具体的なイメージが湧かずに困っていたんです。

そんな時に、ちょうど世界の言語を研究されている学術関係の方とご縁がありまして。
その方に今回の原稿を見せながら、「バブラシュカ語」という架空の言語として一から構築していただいたという経緯がありました。
西洋と東洋の音の響きを組み合わせ、どちらともつかない未知の言葉を作るということを、非常に意識して作ってくださいました。

内容画像
トム

その後の音声収録の現場でご一緒させていただいた時、すごく思い出深いことがあって。
現場で長嶋さんと、バブラシュカ語を作られた監修者の方が「いや、発音はそうじゃない」「母音はここに置くんだ」といったやり取りをされているのを見て、「ものすごいやばい現場に来ちゃったな……」と思いました(笑)。
架空の言葉に対して、明確な「正解」がそこにあるという、このこだわりが。

前田

ははは(笑)。

長嶋

その言語学を研究されている方も非常に仕事が早い方で、結構早い段階でこの「バブラシュカ」という土地の言語体系そのものを一から作っていただいたんです。
文法はこうだとか、単語の省略の仕方はこうだとか、形容詞と動詞の組み合わせだとどうなるかといったことまで、本格的に踏み込んだ内容をまとめていただきまして。

どうやらそれがあると、本当に一つの言語として成り立つくらいの見事な骨組みを作っていただいたのですが、残念ながら僕らはそれを読み解くことができなくて(笑)。
結局、そのご本人にムービーのシナリオ翻訳までお願いしたんです。

前田

そうでしたね(笑)。

長嶋

それで、実際の声をプロの声優さんにお願いして収録に臨んだわけですが、みんな本当に大変でしたよね。
何しろ、世の中に存在しない架空の言葉ですから。
現場の音響監督さんなんかも、最初は「どうディレクションしていいか分からない」という感じでしたし。

トム

大変でしたね。でも、テイクを重ねる中で「これが正解だ!」というリテイクが取れた時に、現場の全員が満場一致で「おお、これこれ! これだよね!」ってなる瞬間があったじゃないですか。
あの空気感は、やっぱりゲームを作っていて最高に楽しい瞬間ですよね。
存在しない言葉なのに、ちゃんとそこには一つか二つの「正解」があるんですよね。
それをパチッと当てた時は、すごく「ああ、やっぱり皆さんプロだなあ」と感動しました。

長嶋

声優さんのオーディションも、10名近くの方に受けていただきましたよね。

前田

年齢層もかなり幅広い方々に参加していただいて、実際にバブラシュカ語の原稿をお渡しして「これを読んでみてください」というオーディションをやりまして。

長嶋

日本人の方だけではなくて、海外の方にもね、色々と参加いただいてね。

前田

思い出深いのは、声優さんの読み上げを色々と聞く中で、ものすごく上手な方とか、外国語ネイティブの発音の方もいらっしゃったんですけど、「この神話の映像に当てる声として、どんな人が話していたらマッチするか」という視点から、みんなで協議したのがすごく印象深いです。

長嶋

そうでしたね。「この声はどこで流れていて、一体誰がこの神話を語っているんだ」というところまで話が広がりましたよね。

納口

うん、うん。

前田

それで結果的に、大人のものすごく上手な人というよりも、ちょっとたどたどしさが残るような、子供というか少女のような声が、割とみんなのイメージに一致したというか。
「これで行こう!」となったんですよね。

長嶋

一時は、その「上手な大人の声優さん」の方に行きかけていたんですよね。
ただ、僕の中でずっと残っていたのは、Vコンに入っていた、翻訳者の方が直接吹き込まれた仮の音声だったんです。
女性の方だったのですが、僕としては「あの空気感は超えられないんじゃないか」と思っていて。もうずっとあのままでもいい、とさえ考えていました。

前田

でも実際の収録では、声優さんがすごく仕上げてきてくださって、みんながそれぞれ思い描いていた「少女のイメージ」にぴったりはまりましたよね。

長嶋

そうですね。もしかしたら、寝ないで練習したんじゃないかな(笑)。
では、せっかくなので完成したムービーを見てみましょうか。

神話ムービー再生

長嶋

いいですねえ。

杉元

そういえば。このライトの表現、後ろから差し込んでいる光の表現なのですが……実は、最初はデジタルの素材だけでライトのエフェクトを作っていたんです。

納口

そうだ、そうだった。

杉元

でも、どうにもトムさんも長嶋さんも納得がいっていないような空気を感じまして(笑)。
そこで、実際に本物のろうそくに火を灯して撮影を行い、その光の明滅をデジタルの上から重ねるという手法をとったんです。

長嶋

ええっ?! そうだったんですか?!

トム

当時は大変なご苦労をおかけしました(笑)。

杉元

はい(笑)。

前田

私たちは今の今まで初耳でしたね。

長嶋

完全に。

杉元

やっぱり、自然なろうそくの明滅というか、あの独特な光の揺らぎというのは、どれだけ作り込んでも実写には敵わないということが、作っていてよく分かったんです。
ですので、手間をかけてしっかり実写で素材を撮影してはめ込んだことが、今回のクオリティの底上げに大きく関わっていると思っています。
これは今回の座談会で、どうしても言いたかったポイントだったんですよね。

内容画像
長嶋

……ちょっと今、感動しています。

杉元

ははは。しかもそのろうそくの明滅もですね、かなりの長尺で撮影をしまして。
「自然に揺れている状態」と、手で風を送って動かした時にどれくらい光に差が出るんだろう、というのを検証して、一番良い部分を切り取ってはめ込んでいるんです。
ただ、あえて風を送りすぎると、それはそれで演出として不自然にきつくなってしまうので、その繊細なニュアンスの調整が難しかったところではありますね。

トム

そうなんだよね、やっぱり。デジタルとアナログの差はまさにここに出るんですよ。
計算された作為的な明滅はどうしても脳が違和感を覚えてしっくりこない。
やっぱり本物のろうそくを使って撮影して、よかったですね。

杉元

はい。そうじゃないと、デジタルでその不規則な揺らぎを再現するための調整に、ものすごく時間がかかっていたと思います。

トム

しかも、視聴者が「これはろうそくの光を実写で撮ったんだな」と気づかないレベルで自然に溶け込んでいるのが素敵ですよね。主役はそこじゃないですから。
この道具をリアルに使って、人に神話を伝承するために工夫して使っているという「実在感」がある。
必要に迫られてその道具を使っているというリアルな空気感が、映像の裏側でしっかり効いている。

杉元

さらにものすごく細かい部分を言いますと、これは「人の手でハンドルを回している」という設定なので、巻物のスクロールも一定のスピードではなく、少し行き過ぎて戻ったり、また少し行って戻ったり、といった動作をあえてちまちまと作って幅を持たせているんです。

トム

ああ、そうそう。

杉元

当時、「この道具を回している語り手は、きっと相当練習して回すのが上手い人なんだろう」なんて裏設定の話もしていたような気がします(笑)。

長嶋

「上手な人が回しているから、テンポが良いんだ」なんてことも言い合っていましたね。

トム

ははは。

長嶋

ありがとうございます。いや、今回のお話を聞いていると、どうしてもBGMやバブラシュカ語のナレーションに焦点がいきがちですが、実はSEの面でもこだわりを詰め込んでいただきましたよね。
トムさん、こちらはいかがでしょうか?

トム

そうですね。今回の座談会にはいらっしゃいませんが、サウンドクリエイターの中村隆之さんという方と一緒に作り上げました。

実は、「この神話が語られている空間は、一体どこなのか」という環境音の割り出しが大きな課題で、SEのバリエーションも何パターンか作成していたんです。
最終的に、長嶋さんから「大学の講堂のような、少し広い教室でこの語りが行われているイメージ」というヒントをいただいた瞬間、すべてのピースがバシッと嵌まって答えが出ました。

長嶋

このイントロムービーは、最終的にゲーム冒頭の「教室のシーン」へと繋がっていく役割を持っていたので、本作に美しくはまった、導入を飾る動画となりました。
皆さん、本当にありがとうございました。

トム

ありがとうございました。