CHAPTER06

想像を広げる
デザインを目指して

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長嶋

実際に『カルドセプト ビギンズ』の開発を進める中で、意識したことや大事にしていたことがあれば教えてください。

松浦

これは『ビギンズ』に限ったことではないんですが、僕は自分のことを、“絵がうまいタイプ”だとは思っていないんです。
だからこそ、アイデアやデザインの発想の部分で評価してもらいたい、という気持ちが強いですね。

絵を見た人に「うまいな」「きれいだな」と思ってもらうこと以上に、「これはどういうクリーチャーなんだろう」「こいつは何をするんだろう」と、想像してもらえることを大事にしています。
自分が子どもの頃、鳥山明さんの『ドラゴンクエスト』のモンスターを見て、すごくワクワクしたあの感じを、今度は自分の絵を見た人にも感じてもらえたらいいなと思っています。

長嶋

なるほど。完成された答えを一方的に見せるというより、見る側が想像を広げられるような“起点”になるデザインを目指しているわけですね。

松浦

そうですね。100パーセント「これはこういうものです」と言い切るよりも、少し余白があって、そこから自由に発想してもらえるほうがいいなと思っています。

神宮

鳥山先生の影響のお話を聞いて、すごく腑に落ちた感じがあります。
松浦さんの絵って、前提として原典やモチーフにかなり詳しいのが見ていて分かるんです。
そのうえで、ただ元ネタに忠実なだけではなくて、ちゃんとキャラクター性がある。
だから、難しくなりすぎず、とっつきやすくて印象に残る形にまとまっているんですよね。
そこがとても良かったですし、今回うまく形にしてもらえたなと思っています。

松浦

ありがとうございます。

前田

神宮さんの立場から見て、「こう来たか」と印象に残っているクリーチャーってありますか。

神宮

いっぱいあるんですが、ひとつ挙げるなら『アルガスフィア』ですね。
これは、もともと自分の中では“マリモ”みたいなイメージのクリーチャーだったんです。
こういう、ほとんど丸だけみたいな存在って、絵描きさんの息抜きにもなるだろうし、昔自分でドット絵を打っていた時にも、そういうシンプルな形のほうがやりやすかった、という事情もありました。

ところが、松浦さんの案では、そこに顔があって、足が生えていた。
それを見た時に「一体一体を手抜きせずにちゃんとキャラクター化してくれているんだな」と感じたんです。

鳥山先生のスライムを初めて見た時の感覚もちょっと思い出しました。
自分は『ウィザードリィ』や『D&D』のイメージから入っているので、最初は「スライムってこうなのか」と少し驚いたんですが、結果的にはあれが大正解だった。
アルガスフィアにも、少しそれに近いものを感じましたね。
ただのマリモっぽい存在より、こうしてキャラクター性が与えられているほうが、きっと多くの人にとって魅力的なんだろうな、と。

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松浦

やっぱり、丸いだけだとシルエットとして少しつまらないんですよね。
手までつけてしまうと、今度はちょっと普通すぎるというか、別の感じになってしまう。
だから、手はつけずに足だけにして、気持ち悪さと可愛さが混ざった感じを出したかったんです。

長嶋

実はこれ、ちょっとした裏話がありまして。
神宮さんからは、かなり明確に「足は取れないかな」という話もいただいていたんです。
最終的には、こちらで「これはこのままいきたいです」とお伝えして、その方向で残したんですよね。

前田

はい。そうでした。

神宮

でも、結果的にはそれで良かったんじゃないですかね。
松浦さんとは直接ではなく、長嶋さんや前田さんを通してやり取りしていたわけですよね。
その中で、「これはこうじゃないか」とか「これは違うんじゃないか」といったやり取りも、やっぱりあったんですか。

長嶋

ありました。ただ、感覚としては2割くらいが議論や調整で、8割くらいは松浦さんのアイデアがそのまま生きていた感じですね。

前田

松浦さんは迷った時に複数案を出してくださることもあって、その中からこちらが選ぶ形も多かったです。
あとで「松浦さんご自身はどれが本命だったんですか」と答え合わせをすると、こちらの選択とあまりズレていないことも多かったですね。
特にこちらで決めきれない時は、神宮さんに判断を委ねることもありました。

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神宮

自分としては、絵そのものはどれも良い前提で、「この能力や設定にいちばん合うのはどれか」という視点で見ることが多かった気がします。

長嶋

神宮さんから渡される設定文やフレーバーテキストを受け取って、どこは絵として残すべきで、どこはアレンジしてよいと判断していたのか、そのあたりを伺いたいです。
結果的にかなり本質を外さずに形にされていた印象があるんですが、何か意識していたポイントはありましたか。

松浦

ゲーム的に大事な部分、ここはデザインに反映させたほうがいいだろうな、というところは自然と分かるので、そこは残すようにしていました。
そのうえで、「ここは少し自由にしてもいいかな」と思う部分もありますし、フレーバーから思いついたままに描いていく感じもありましたね。

神宮

あのフレーバーテキストって、今思うとだいぶ言葉足らずなものも多かったと思うんですけど、そこからよく膨らませてもらえたなと思います。

長嶋

少ない言葉から広く発想して、でも大事な芯は外さない。
今のお話を聞いていて、「ドラクエ1」の開発時に、堀井雄二さんが鳥山明さんに渡していたモンスター資料を思い出しました(笑)。

神宮

確かに!

松浦

あの話は印象的ですね。

長嶋

子供の落書きのようにも見える簡単なスケッチを渡して、返ってくるものは全然違う。
でも、結果としてそちらのほうが圧倒的によかった、という。

神宮

それを受け入れて、「そっちのほうがいい」と判断できる堀井さんの力も大きいですし、もちろん鳥山先生の表現力も大きい。
ああいう関係は本当に理想的ですよね。

長嶋

松浦さんもそのままなぞるというより、まずは別の可能性を探ろうとされることが多かった印象があります。

松浦

そうですね。最初はやっぱり、少し逆らいたい気持ちがあるんです(笑)。
ただ、やり取りの中で、「ここは先方にとって譲れない部分なんだな」と分かったら、その時はちゃんと言われた方向に合わせます。

神宮

『アヌビアス』なんて、かなり難しい題材だったと思います。
初代の頃にクリーチャーのネタがかなり尽きてきた中で、『アヌビス』という元ネタと、当時自分が飼っていた熱帯魚用の水草を無理やり結びつけて作った存在なんです。
植物系も入れたかったですし、水属性で何かないかと考えた末に、かなり強引にでっち上げたクリーチャーでした。
それを、あの限られた設定やフレーバーから、ちゃんと具体的な姿として立ち上げてくれた。
完成形を見た時は、「わあ、来たな!」と思いましたね。

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前田

これは、実際のやり取りの中でも少し悩んだ記憶があります。
「これ、どう解釈したらいいんですかね」という話は事前にしましたよね。

神宮

でしょうね(笑)。でも結果として、すごくうまく落とし込んでもらえたと思います。本当にかっこよくまとまっていました。

長嶋

神宮さんご自身が今回意識されたことについても改めて伺いたいです。

神宮

最初に企画の趣旨を伺った時に、「初心に帰ること」、それから「あまり複雑化しないこと」は、かなり意識して進めていました。
その方針が最初からはっきりしていたことで、むしろ自分の中でも方向を絞りやすかったんです。

シリーズものって、続編になるほど「もっと足そう」「もっと盛ろう」となりがちなんですよね。
前作の『サーガ』や『リボルト』では、ある意味でサービス精神もあって、強いものや複雑なものをどんどん足していく方向がありました。
能力も三つ四つと重ねたりしていましたし、遊びの密度を上げる方向に進んでいたと思います。
でも今回は、そういう盛り方はほとんどしていません。
あえてそうならないための枠が最初からあった。
だからこそ、シンプルなのに面白いと思ってもらえるかどうかが大きな挑戦でした。

長嶋

むしろ、そちらのほうが難しいですよね。

神宮

そうなんです。シンプルにして終わりではなく、それでちゃんと面白くしないといけないので、かなりチャレンジではありました。
ただ個人的には、すごくよくまとまって、ちゃんと面白いものにできたんじゃないかと思っています。